13-11-07: 冬のカマキリ
昼食時、1階にある食堂からガラス越しに、
石の敷き詰められた中庭を何とはなにし眺めていると、
どこからともなく風に乗って、
メアリー・ポピンズのようにカマキリが降ってきた。
突然のできごとに、本人(本虫?)も事態が飲み込めていない様子。
からだをぐっと起こして、あたりを見渡す。
ゆっくり回りながら律儀に少しずつ観察して、けっきょく360度回った。
この環境、にわかには理解しがたいだろうな。
石の彫刻に敷石。すぐ近くに植物はほとんどない。
どうする。
人通りが多い中庭なので、ガラスに隔てられた目撃者の私は気が気でない。
不安的中、おしゃべりをしながら女子学生が歩いてきた。
全くのコース上にカマキリがいる。
絶体絶命!その一歩が!
踏み潰されはしなかったが、
一度蹴飛ばされ、その落ちた先でもう一度蹴飛ばされた。
計算されたように、ぽーん、ぽーん、と。
もちろん、さわやかに闊歩する学生自身は何にも気づいていない。
からだは大丈夫か。
しばらくしたら、カマキリはてけてけ歩き始めた。
どうやら致命的ダメージはないらしい。
次なる危機。男子学生接近。
そのコースの上にカマキリ。
今度こそまずい。
一歩踏み込んだ、その次の一歩が…。
けっきょく、学生はカマキリに気づかないまま、またいで去っていった。
一歩が大きくてよかったね。
次。清掃の女性。
大きなゴミ袋を持っている。
カマキリの近くに立っている同僚を見つけ、近づいてくる。
そのゴミ袋を地面に置こうとして、そこにはカマキリが…。
なぜか思いとどまってゴミ袋を置かず、簡単なあいさつをして去っていった。
仕事熱心な人だったのが幸いした。
次、男子学生。
彼は不意にカマキリを見つけた。
しゃがんで覗きこんで、ひとり面白くなったらしく、
カマキリの頭を指でちょんちょんと触って、
そのまま、去っていった。
ああ、もう。どこかへ連れてってやれよ。
ぼくは、食事を終えて、中庭にカマキリを探しに出た。
食堂からはよく見えたのに、石敷の現場に出てみると見あたらない。
〈もう、端っこのほうに逃げたか。〉
あきらめて去ろうとしたら、ちょっと離れた、人の通る場所にまだ居た。
敷石と同系色。これは、確かになかなか見えないな。
しゃがんで様子を見たら、ヤツはカマを持ち上げてファイティングポーズを取った。
おいおい、この10分間のできごとを、ずっと見守ってきたのはぼくだけだぜ。
このまま中庭にいるとほぼ確実に踏まれるので、
つまんで神殿近くの繁みに放した。
エサになる虫がいるかわからないが、あとは自力で何とかして下さい。
白昼の些細な、でもとてもスリリングな光景。